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遺伝子治療薬、進む米 滞る日欧

2020.02.25
遺伝子治療薬、進む米 滞る日欧
 ≪日本経済新聞2020年2月22日より

米、制度整備で開発ラッシュ  
日欧、超高額のコスト警戒

病気の原因に治療遺伝子を送り込む「遺伝子治療薬」の普及を巡って各国の対応が分かれている。米国では薬価制度の多様化や民間保険の整備が進み、米ファイザーなど製薬会社の開発が活発になっている。一方、高額なコストに対する警戒感から日欧では慎重論が根強い。増大する社会保障費とどう折り合いをつけるかが製薬各社の技術革新のカギを握る。

遺伝子治療薬は、これまで治療できなかった難病や希少疾患の患者に対し1回の投与で治療効果が長期間継続するなど、画期的な効果が報告されている。スイスのノバルティスが米国で発売した小児難病の治療薬「ゾルゲンスマ」の薬価が2億円を超えるなど、超高額な値付けにも注目が集まっている。



調査会社コーヘレント・マーケット・インサイツの予測によると、遺伝子治療薬の市場規模は2017年の60億ドル(約6600億円)から26年に350億ドルに拡大する。

米、年200件申請も

開発で先んじるのは米国勢だ。「商用生産に向けた準備は万全だ」1月中旬、米ブリストル・マイヤーズスクイブ(BMS)のジョバンニ・カフォリオ最高経営責任者(CEO)は居並ぶ投資家を前に自信を見せた。

サンフランシスコで開かれた「JPモルガン・ヘルスケアカンファレンス」。世界の製薬約450社が集まる一大イベントで注目を集めたのが、遺伝子治療薬の開発状況だった。BMSは19年に開発で先行する米セルジーンの巨額買収に踏み切った。同年12月に血液がん薬の承認申請手続きを終え、早ければ20年中に米食品医薬品局(FDA)からの承認を見込む。

米国ではファイザーやノバルティスなど世界大手だけでなく、バイオスタートアップや研究機関による技術開発が活発になっている。普及に向けた制度設計を官民ともに積極的に支援していることが大きな理由だ。

20年以降の遺伝子治療の新薬申請は年200件超―。FDAは米国内での開発状況を予測する。新薬申請の急増に備え、審査人員を増やすなど承認ペースを速める方針だ。米医療保険大手シグナは19年9月、超高額な遺伝子治療薬を患者の自己負担なしでカバーする新プランを発表した。

日本は2点のみ

制度設計に力を入れる米国と対照的に、日本では消極的な姿勢が目立つ。日本で販売される遺伝子治療薬は現時点でノバルティスの「キムリア」と大阪大学発スタートアップの「コラテジェン」のみ。コラテジェンは申請から承認取得までに1年、薬価が決まるまでさらに5カ月がかかった。

厚生労働省は20年度から審査期間を短縮する方針だ。ただ薬価を決める協議会では遺伝子治療薬について「原価の情報開示が不足している」「なぜこんなに高いのか」と批判的な声が多く、普及への道のりは険しい。


米国の民間保険制度と違い、日本は全国民が平等な治療を受けられる皆保険制度が前提。薬剤費の多くを税金で賄うため原材料と製造コストを基準にする薬価もできるだけ低く設定する方向に傾きやすい。高額薬を社会全体でどう受け入れるのか議論は進んでいない。

成功報酬型や分割払いなど様々な仕組みで新薬を受け入れてきた欧州も超高額な薬価がつく遺伝子治療薬には慎重だ。

米バイオベンチャーのブルーバード・バイオは、開発した遺伝子治療薬「ジンテグロ」について、ドイツの複数の健康保険会社と分割払い契約を締結し、158万ユーロもの 薬価の交渉に成功した。しかし「あくまでも限定的な事例。基本的に欧州は高額薬に否定的だ」(国内証券関係者)

日欧だけでなく、開発が活発な米国内でも「(患者が)住宅購入以上の自己負担を抱えかねない」(ニューヨーク大学のアーサー・カプラン教授)。一部で急速な普及への懸念が浮上している。

製薬会社は薬剤費の支払い方法について柔軟な姿勢をみせるが、開発するのは「高額で効果的な新薬」が中心で、「安くて効果的な新薬」の開発には必ずしも積極的ではないという面もある。

高額な新技術が社会的なコストを引き下げるまでには一定の時間がかかる。技術革新と増大する社会保障費のバランスをどうとるのか。容易に答えが出ない難問に各国は直面している。

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